@第一生命ホール
@草月ホール
H : アマゾンのどういうところにインスピレーションを受けるのですか?
G : 2つお話しましょう。日本的な話かもしれません。
アマゾンの村でイワラピチ(シングーの奥地。アウトシングー。一番近い街からでも飛行機で3、4時間)という所があるのですが、そこにいた時、朝の4時か5時に、大きな叫び声がして、私は飛び起きました。オリンピオという人が呼ぶので出て行くと、サパインという村長が280から300人いる村人を前にして、小屋が燃やされたことについて、怒鳴っていたのです。
「誰が燃やしたのか」と、オリンピアに聞いたら、「ここには個人はいない。責任は全員の責任です」という返事でした。
他の日に、早朝、叫び声がして、やはり村長が今度は非常に楽しそうに笑って、
みんなを相手に非常に幸せそうに話していました。後で聞いたら村に女の子が生まれ、その喜びを皆で分かち合っていたのです。
人間は感情を分かち合えれば、
自分自身の魂を大きくすることもできるし、魂が大きくなれば、寛大になれる。
自分が受け取ったものを、また渡すことができる。
たとえば幸せでも、自分や他人の幸せを共有できれば、
自分が渡したものがもっと大きくなって返ってくる。
悲しみも分かち合えれば、連帯感が悲しみを軽減してくれる。
それを彼らから学びました。
それ以降、人生が平穏で、波風もなくなってきていると思います。
H : 自然の中の音は、あなたの作品に反映されていますか?
G : これも日本的なスピリチュアルな回答かもしれません。
10年前、スペインでガルシア=マルケスの作品について語る映像を撮影していたんです。
私たちは非常にきれいな家の中で朝のコーヒーを飲んでいました。
そこにガルシア=マルケスが、「執筆が完成した」といって現れました。
一人が「ジーニアス。すばらしい」と言いました。するとマルケスは「本の中に素晴らしい所があったら、それはあなたが私に教えてくれなければいけないな」。
どういうことかというと、彼の見方と読者の見方は違う。
そういう意味で、私としては「今、自分が自分の音楽について語るのは意味がない。意味があるのは、あなたが、“私がこういうことをしている”と考えたことに意味があるのであって、その2つは全然違うものである・・・」。ということです。
H : 最近、教育活動に力を入れていらっしゃるとか?
G : まだ3、4年しかやっていないんですが、ようやく軌道に乗ってきました。
7、8歳くらいが対象で、子供の「内面の聴覚」を育てる試みをしています。
リオの学校でやっている活動は、1グループ20〜25人。
床に寝てもらい「目を閉じて一番仲良しの友達のことを考えて。低い声?高い声?優しい声?ガラガラ声?・・・」、こんな具合に声を心の中でイメージさせます。これを4、5回繰り返し、友達の声に一番似ている楽器を選んでもらうのです。
これを6ヶ月やると、5人位の人が、全く別のことを同時にしゃべっていても、分かり合えるというという関係になっていくのです。
要するに、人は耳だけで聞いているわけではないのです。
同様に管楽器のクインテットが鳴っていると、ひとつひとつの音を分けて聴けるようになります。
ということで、これは、実は非常に良いポリフォニーの勉強なのです。
心の内に耳があれば、どんな風にも音楽が好きになれる。音楽のジャンルだの偏見は一切なく、どんなものも好きになれるし、聴けるようになると思うのです。
H : 今の人類がかかえている問題についてのお考えを聞かせてください。
G : 正確に答えるのは難しい質問ですね。
様々な文化的な背景があるので・・・。しかし、できるだけお答えしてみます。
貧困については、どのブラジル人も、過去における貧困を創造してきたプロセスの負債を背負って生まれてきています。
大都市はどこもそうですが、麻薬マフィアの支配によって捕虜にされているような状況です。コロンビアなど外国で作られた麻薬がブラジルを通過して、各国に広がっていて、ブラジルはそのルートとなっているのです。
それに対して自分はどう行動できるか。
個人が行動するには、もっと有効かつ効率的な政府の支援が必要と、私は固く信じていますが、現在ブラジルにはそういったことはないですね。
たとえば子供の労働は非常に悲惨。石炭産業で多くの子供が悪条件で不法な労働を強いられています。これについて政府は何もできていない。
自分は内輪の小さなグループで、そういった子供の支援ハウスを運営しているのですが、非常に小さなことです。
ブラジルは識字率が完全ではないし、こういう問題解決には抜本的な政治の変化がなければ無理でしょう。
ブラジルは今、ブリックスなどといって経済的に上昇傾向にありますが、それは、とりもなおさず、ブラジルで蔓延している資本主義が人間を疲弊させていることでもあります。経済は大きくなっても貧富の格差が恐ろしく拡大しています。それに対して、何の措置もとられていない。
一方で環境の問題もあります。たとえばアマゾンの伐採についても、アマゾンの面積が欧州全体の面積に匹敵することを決して忘れてはならないし、私は忘れません。
政府はアマゾンでの不法伐採になかなか対策をとらず、不幸な事件が次々と起こっています。私としてはNGOやNPOに支援したりして関わっていますし、これからも関わり続けていくつもりです。
私は楽器を演奏しているのではなく、自分の人生を演奏しているわけだし、人生というのは、とりもなおさず、ブラジルにおける人生であって、ブラジルそのものであるから、ブラジルには何とかなってほしい。
ブラジル人は、全ての国民が一緒に共生していくという考えをもっと学んでいくべきなのです。
そのために何ができるかを考えつつ、小さなことから確実にやっていきたいと思っています。
私たちができる小さなこと以外は、政府が確実にしていくべきなのです。
その辺を話し出すともっと複雑になってしまうので、この辺でやめておきます。
オブリガード!